多目的ダムのような共同事業における費用負担の考え方は、大きく二つある。一つは、得られる効用に応じて負担する方法(応益負担)、もう一つは、負担する能力に応じて負担する方法(応能負担)である。そして実際にはこの両者の考え方を勘案するのが一般的である。
多目的ダムのコストアロケーションにこれを適用すれば、応益負担であれば妥当投資額で、応能負担であれば身替わり建設費で、それぞれ按分して負担することになろうが、この両方をどのように勘案するかが課題となる。だが、多目的ダムの建設の場合には、さらに、事業者によって事業に参加する緊急性や優先度に違いがあり、その要素をいかに加味するかも考えなければならない。特に、治水、発電、農業用水、都市用水という各用途は、それぞれ事業の性格が異なるし、また、各用途はいずれも独占的な事業であって市場競争のもとに無いため、効用や負担能力を共通の基準で判断することが難しい。
このような事情のもと、事業への参加の有無によって全体の事業費が大きく左右されることに着目して、分離費用の負担を優先するルールが考案された。その際に、各種の事例が検討され、経験的な知恵が活かされたことは言うまでもない。分離費用身替わり妥当支出法は、理論と経験の混合物として案出されたルールなのである。
実際にルールがどのように機能しているかは、上表の例において各種費用の用途間の負担割合を算出して比較するとわかりやすい(下表)。負担のバランスが偏らないように調整されていることがわかろう。