[選評] <選評・大西成明>
天空にフワフワと樹林が舞っているような、なんとものどかで、見る人を幸せな気持ちに包み込むような力のある写真です。この雪国のダムは、春になると雪解けの放流で水位が上昇、上流玉川温泉の強酸性水が作り出すエメラルドグリーンの湖面が、独特な水没林の佇まいを演出しています。こうした光景は、横位置で広がりを強調したいものですが、作者はあえて縦位置の切り取りを選択、天空の映り込みを活かし、堂々とした樹の枝張りと萌色の新緑を見事にとらえています。植物から染料を、鉱物から顔料を作り出してきた「日本の古代色」の如く、刻一刻と変わりゆく湖面の表情を掬い上げる作者の手つきが、実に巧みです。