田原睦夫裁判長名判決 ホステス報酬事件 最高裁平成22年
租税判例百選6版 13事件 7版 13事件 谷口基本判例I 4事件 佐藤修二 リーガルマインド 57頁
佐藤修二編『対話でわかる租税「法律家」入門』中央経済社・2024年・10頁
所得税納税告知処分取消等請求事件
最高裁判所第3小法廷判決/平成19年(行ヒ)第105号
平成22年3月2日
【判示事項】ホステスの業務に関する報酬の額が一定の期間ごとに計算されて支払われている場合における,所得税法施行令322条にいう「当該支払金額の計算期間の日数」の意義
【判決要旨】ホステスの業務に関する報酬の額が一定の期間ごとに計算されて支払われている場合において,所得税法施行令322条にいう「当該支払金額の計算期間の日数」は,ホステスの実際の稼働日数ではなく,当該期間に含まれるすべての日数を指す。
【参照条文】所得税法204-1
所得税法205
所得税法施行令322
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集64巻2号420頁
裁判所時報1503号89頁
判例タイムズ1323号77頁
判例時報2078号8頁
税務訴訟資料260号順号11390
LLI/DB 判例秘書登載
【評釈論文】ジュリスト1416号74頁
ジュリスト1421号131頁
ジュリスト1440号209頁
別冊ジュリスト207号30頁
別冊ジュリスト228号28頁 租税判例百選6版
税研178号22頁
税経通信65巻5号146頁
税理53巻7号155頁
税理53巻9号86頁
税理58巻15号144頁
判例時報2099号164頁
法曹時報64巻2号454頁
主 文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理 由
上告代理人鳥飼重和,同橋本浩史,上告補佐人佐野幸雄の上告受理申立て理由(ただし,排除された部分を除く。)について
1 本件は,パブクラブを経営する上告人らが,ホステスに対して半月ごとに支払う報酬に係る源泉所得税を納付するに際し,当該報酬の額から,所得税法(以下「法」という。)205条2号,所得税法施行令(以下「施行令」という。)322条所定の控除額として,5000円に上記半月間の全日数を乗じて計算した金額を控除するなどして,源泉所得税額を計算していたところ,被上告人らから,上記控除額は5000円にホステスの実際の出勤日数を乗じて計算した金額にとどまるとして,これを基に計算される源泉所得税額と上告人らの納付額との差額について納税の告知及び不納付加算税の賦課決定を受けたことから,これらの取消しを求める事案である。
2 パブクラブを経営する者がホステスに報酬(以下「ホステス報酬」という。)を支払う場合,その支払金額から「政令で定める金額」を控除した残額に100分の10の税率を乗じて計算した金額が納付すべき源泉所得税の額となるところ(法204条1項,205条2号),施行令322条は,上記の「政令で定める金額」を,「同一人に対し1回に支払われる金額」につき,「5000円に当該支払金額の計算期間の日数を乗じて計算した金額」とする旨規定している。
3 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 上告人らは,それぞれ経営するパブクラブにおいて,顧客に対し,接待をして遊興又は飲食をさせており,その接待をさせるホステスを使用している。
上告人らは,年末年始を除き,年中無休でパブクラブを開けて営業している。
(2) 上告人らは,各ホステスが採用時に提出した応募申込書に記載された出勤可能な曜日及び時間を目安に,各営業日の開店前までに,各ホステスに対して当日の出勤の可否を電話等で確認するなどして,ホステスの必要人数を確保しており,各ホステスの実際の出勤の有無についても,各人別に各日ごとに管理している。
(3)ア 上告人らは,毎月1日から15日まで(ただし,毎年1月は3日から15日まで)及び毎月16日から月末まで(ただし,毎年12月は16日から30日まで)をそれぞれ1期間と定め(以下,各々の期間を「本件各集計期間」という。),本件各集計期間ごとに各ホステスの報酬の額を計算し,毎月1日から15日までの報酬を原則としてその月の25日に,16日から月末までの報酬を原則として翌月の10日に,各ホステスに対してそれぞれ支払っている。
イ 上告人らは,各ホステスに対して支払う報酬の額について,「1時間当たりの報酬額」(本件各集計期間における指名回数等に応じて各ホステスごとに定まる額)に「勤務した時間数」(本件各集計期間における勤務時間数の合計)を乗じて計算した額に,「手当」(本件各集計期間における同伴出勤の回数に応じて支給される同伴手当等)の額を加算して算出している。
ウ 上告人らは,それぞれ,上記イのとおり算出した各ホステスの報酬の額から,5000円に本件各集計期間の全日数を乗じて計算した金額及び「ペナルティ」(各ホステスが欠勤,遅刻等をした場合に「罰金」として報酬の額から差し引かれるもの)の額を控除した残額に100分の10の税率を乗じて各月分の源泉所得税額を算出し,その金額に近似する額を各法定納期限までに納付していた。
(4) 被上告人らは,各ホステスの本件各集計期間中の実際の出勤日数が施行令322条の「当該支払金額の計算期間の日数」に該当するとして,1 被上告人杉並税務署長において,平成15年7月8日付けで上告人X1に対し,同12年2月分から同14年12月分までの各月分の源泉所得税について,納税の告知及び不納付加算税の賦課決定を行い,2 被上告人武蔵野税務署長において,同15年6月30日付けで上告人X2に対し,同12年4月分から同14年12月分までの各月分の源泉所得税について,納税の告知及び不納付加算税の賦課決定を行った。
なお,被上告人らは,本件訴訟において,上記の点に加え,ペナルティの額を各ホステスの報酬の額から控除することはできない旨の主張をしている。
4 原審は,上記事実関係の下において,各ホステスの報酬に係る源泉所得税額を計算するに当たりペナルティの額を各ホステスの報酬の額から控除することはできないとした上で,次のとおり判断して,上告人らの請求をいずれも棄却すべきものとした。
ホステス等の個人事業者の場合,その所得の金額は,その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額(法27条2項)であるから,源泉徴収においても,「同一人に対し1回に支払われる金額」から可能な限り実際の必要経費に近似する額を控除することが,ホステス報酬に係る源泉徴収制度における基礎控除方式の趣旨に合致する。本件のように,報酬の算定要素となるのが実際の出勤日における勤務時間である場合には,当該出勤日についてのみ稼働に伴う必要経費が発生するととらえることが自然であって,これによるのが,非出勤日をも含めた本件各集計期間の全日について必要経費が発生すると仮定した場合よりも,実際の必要経費の額に近似することになる。
施行令322条の「当該支払金額の計算期間の日数」とは,「同一人に対し1回に支払われる金額」の計算要素となった期間の日数を指すものというべきである。そして,本件における契約関係を前提とした場合,各ホステスに係る施行令322条の「当該支払金額の計算期間の日数」とは,本件各集計期間の日数ではなく,実際の出勤日数であるということができる。
5 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 一般に,「期間」とは,ある時点から他の時点までの時間的隔たりといった,時的連続性を持った概念であると解されているから,施行令322条にいう「当該支払金額の計算期間」も,当該支払金額の計算の基礎となった期間の初日から末日までという時的連続性を持った概念であると解するのが自然であり,これと異なる解釈を採るべき根拠となる規定は見当たらない。
原審は,上記4のとおり判示するが,租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではなく,原審のような解釈を採ることは,上記のとおり,文言上困難であるのみならず,ホステス報酬に係る源泉徴収制度において基礎控除方式が採られた趣旨は,できる限り源泉所得税額に係る還付の手数を省くことにあったことが,立法担当者の説明等からうかがわれるところであり,この点からみても,原審のような解釈は採用し難い。
そうすると,ホステス報酬の額が一定の期間ごとに計算されて支払われている場合においては,施行令322条にいう「当該支払金額の計算期間の日数」は,ホステスの実際の稼働日数ではなく,当該期間に含まれるすべての日数を指すものと解するのが相当である。
(2) 前記事実関係によれば,上告人らは,本件各集計期間ごとに,各ホステスに対して1回に支払う報酬の額を計算してこれを支払っているというのであるから,本件においては,上記の「当該支払金額の計算期間の日数」は,本件各集計期間の全日数となるものというべきである。
6 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そこで,法205条2号,施行令322条所定の控除額を,5000円に本件各集計期間の全日数を乗じて計算した金額とした上で,上告人らが納付すべき源泉所得税額及び不納付加算税額を算定させるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田原睦夫 裁判官 藤田宙靖 裁判官 那須弘平 裁判官 近藤崇晴)
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行政判例百選 第6版 73事件 第7版 69 第8版 67事件
農地売渡計画並びに買収令書取消請求事件
最高裁判所第1小法廷判決/昭和27年(オ)第355号
昭和29年1月21日
【判示事項】訴願の目的となつた処分が原処分□しろいしかくにより取消された後になされた訴願棄却の裁決の右取消の効果に及ぼす影響
【判決要旨】村農地委員会の定めた農地買収計画につき県農地委員会に訴願が提起された後村農地委員会が右計画を取り消した場合において、右取消の効果は、その後訴願棄却の裁決があつても影響を被ることはない。
【参照条文】訴願法16
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集8巻1号110頁
判例タイムズ38号47頁
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
論旨第一点は、原判決には訴願法一六条の解釈を誤つた違法があると主張するが、論旨にいわゆる第一回目の買収計画は、栃木県農地委員会がこれに対する訴願を棄却する旨の裁決をする前に既に、吉田村農地委員会によつて取消され、その効力を失つたものであり、その後になされた右訴願棄却の裁決は右第一回目の買収計画の取消の効果には影響を及ぼすものではないと解すべきであつて、所論は理由がない。
同第二点、第三点は、事実誤認、単なる法令違反の主張を出でないものであつて、「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものとは認められない。
よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 入 江 俊 郎
裁判官 真 野 毅
裁判官 斎 藤 悠 輔
裁判官 岩 松 三 郎
]]>芭蕉忌に芭蕉の像もなかりけり 正岡子規
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